女のように腕を背中に回して抱きついてみたけれどやっぱり同じ性を持ってしまった為か、同じような高さの相手に行うには些か落ち着かない体制。けれどそう、どこにでもいるような春を売ってるような女みたいに、目の前の奴に抱きついて、俺のいつもの笑みとは格段に違う、最高級の笑みを浮かべてみせた。どんな女にだって負けない笑顔だと自惚れても可笑しくない位のを。
男はそんな笑みを向けられても動きもせずに、淡々とその瞳で俺を見続けた。なーんのリアクションも無しなんて詰らない。いつもと同じ、俺がどんなに良い笑顔を見せた所で向けられるのは冷たい目。そして僅かに哀れみが見える目を、俺に向けるのだ。
「俺なら好きにしてもいいよ?君の主人に対するみたいに気を使わなくたって良い、壊れないからな」
「…嫌いな男だと云う所を除いては最高の条件だろうな」
「ハハッ、……それでもご主人様より気持ち良くなれるだろ?」
「その口さえ無ければもっと気分が良いだろうな…御前でさえ無かったら、誰でも良い」
男が愛しているのは夢の国で生きる病弱な夢魔だと云う。こんなに真っ黒い欲望を持った男が好きになるには脆すぎる相手だと思った。そしてまたその黒い欲望を抑えてそいつと抱き合うとか、さ。余程大切に大事にされてるんだろうな、妬けるよね。
背中に回した手を上へ上へと動かして漆黒の髪を掴んだ。白い肌に触れて、唇に触れてみた。この口も愛を囁く事が出来るんだろうか。一度位みてみたいなんて夢みたいな事を思っているけどきっとその時が来ない事を俺は知ってる。永遠に、来ない。だから俺は男が持て余す真っ黒の欲望をぶち込まれる捌け口。愛する主人にさえ与えたことの無い限りない欲望を、男は俺にだけくれる。それが俺の、しあわせ。