ピアス=ヴィリエはある一点を見つめて目を離さなかった。
それこそ穴が開きそうな程、それを見つめ続けた。相手がその視線に気づくまでの間、瞬き一つなかったのは恐ろしい事実だった。
幼い顔に隠れた異常なまでの執着心は、その瞳に色ずく緑を見れば一目瞭然だった。
「何か私に言いたい事でもあるのかな、臆病な眠りネズミ。」
皮肉を込めて呼ばれた名に、ぴくりと反応して見せるも、彼は目を逸らすことはなかった。
返す言葉が思い浮かばないだけで誤魔化しているようにも取れるが、その真相は勿論本人にしか分からない。
気味が悪いと思いつつも、ブラッド=デュプレは気にならないフリをすることにした。この手の嘘なら彼に勝る者はいないだろう。
しかし、その完全なるポーカーフェイスでさえ崩してしまうくらいの威圧を持ってネズミは彼を見続けた。
自己流にブレンドされたコーヒーを口につける時も、離したときも、ずっと、ずっと、その視線がずれることはなかった。
やり難い。
ブラッドは素直にそう思った。
こんなたかが弱虫の、たかが掃除屋の、子供に、これほどまでに翻弄されている自分が信じられなかったのだ。
せっかくの菓子も紅茶も、この可愛げのない子供の所為で全て台無しになってしまった。
彼は冷静な様に見えて、とても短気な人間でもあった。特にそれが自分の気分を阻害するものなら引金など軽いものだった。
段々と鋭くなっていく自らの瞳を自覚しながら、彼は静かに口を開こうとした、が、それは相手の言葉により遮断される結果となった。
その目は貫くように前を、相手を、ブラッドを、捉えて離さない。
「例えば今、臆病者と蔑まれる子供から愛の告白を受けたら、貴方なんて言うかな。」
今度は自然と目が見開く。何を言っているんだというような表情の彼に満足したのか、ネズミはにこやかに微笑んで見せて、いとも簡単に彼のポーカーフェイスを崩壊させるのであった。
「俺、可愛いものが大好きなんだ。」