「いいの?もらっちゃうよ。」

そう言うと彼は決まってその嫌な笑顔で答えるのだ。「できるものなら、」と。
傍に居るから、ずっと一緒にいるからこそ彼が一筋縄ではいかないことを知っているんだろう。
同じ空間を過ごすって、とても素敵なようで、何よりも残酷なんだということを彼の笑みと言葉によって学ばせてもらった。
あんなにも分かり易い彼の心一つ分からない夢魔が、時折会いに来るだけの眠りネズミの内心など分かる筈も無く。
今日も今日とて必死にアプローチを仕掛けてみるも、効果が得られないのはどうしたものか。
わりと我慢強い自分もこれだけ変化がないと流石に爆発してしまいそうだ。勿論出来るはずはないのだが。

そんな事を思った二日後、懲りずにまた会いに行ってみれば、何だか様子が可笑しい。久しぶりに吐血したとかなんとかで、側近であるトカゲが付きっ切りの看病をしているようだった。
夢魔が何気なく有難うといった言葉に、伸ばしかけた手を引っ込ませ、彼は崩れた笑みを浮かべている。下を向いて胃の辺りを抑えている夢魔には決して見えないそれを、扉の影から目撃してしまった自分に心底後悔した。

 どうして君は彼の傍から離れないの?

何気ない質問だった。いつもの皮肉を込めたものじゃなくて、純粋に聞きたかった。そんなに辛いなら離れればいいじゃないかと、どうして傷ついてまで傍にいようとするのかと。
するとどうだろう。彼はまた自分の大嫌いなあの笑みを浮かべるのだ。何も言わずに、諦めたような表情で、ただ黙って自分を見下ろしていた。
それだけで分かってしまった。今ならもっと分かってしまう。離れないんじゃなくて、意志とかそういうのとか関係なくて、トカゲはあの人から離れられないんだと。もうそんな所まできてしまったんだと。今までの彼を見ていたら何だか納得できてしまって、自分はハァ、と溜息を吐く。

(でも、渡したくないんだよなぁ。)

同情もするし、ああなりたくないとも思う。けど、自分はきっとまた明日も此処に立っているだろうなぁと思った。





報われないなあ