「マフィアって、面白いんだってな。」
好き放題撃ち殺せるらしいし、と付け足せば、彼はあからさまな溜息を吐いていた。そして、遠くを見上げて自分に言ったのだ。自分は上を目指さなければいけないと、その為にもお前には働いてもらう、と。
契約だ、と。
金も女も富みも名誉もくれてやるから、と言われたが、自分にはどれもぴんと来なかった。人殺しには少しばかり反応したが、自分の欲するのはそんな物ではなかった。自分の今欲しい物。素直に口に出す。
「俺はブラッドが欲しいな。」
ぽろりと零れた自分の言葉に、彼は珍しく目を切れ長の目を丸く見開いていた。(彼曰く、馬鹿すぎる思考についていけなかった、らしい。そこまで言うことないと思うのだが、彼が言うのならばそうなんだろう。)とにかく、自分は彼の存在を代わりに貰ったのだ。つまりそれは、いつか彼の手で自分を殺めてくれるという、一種の契約だ。だが、その時を待ち望む反面、何処かでそれとは違う願いを持つ自分がいた。
(俺の手で、ブラッドを殺したい。)
酷く、醜い願いだと思う。自分でも馬鹿だなぁとは思うが、何でだろう、想像すればするほどその様が鮮明に描かれて、自らの血に染まる彼がこの世の何よりも美しいもののように思えた。これを口に出したら、彼は何と言うだろうか。馬鹿だと一刀両断してくれるだろうか、それとも非難した目で自分を見るだろうか。どちらにせよ、それでも自分は彼の下を離れる事はないだろうと思った。離れたら最後、それで自分の世界は滅びてしまうだろうから。
そこで、ふと彼が自分の前に立った。自分より少し背の低い彼だが、そんなことが気にならないくらい威圧感があった。これが彼の覚悟なんだと改めて尊敬の念を抱いた。すっ、と差し出された手に握られているのは一つの拳銃。綺麗に整備されているそれは此処最近造られたものでまず間違いはないだろう。これを自分にという彼の目は自分を確かに捉えていた。
ああ、ここで契約が結ばれるんだと理解した。自分のものより幾分か細く、白い手は、不釣合いの銃によって、より際立っていた。その手を見た瞬間から、自分は彼を命をかけて守らなくれはいけないのだと、思った。
静かに受け取ったそれは、思ったより重く、だが今までのどれよりも手に馴染んだ。まるで本物の自分の手足のようだ。「いいな、これ」と言って見せれば彼は得意げに「特注だからな」と答えて見せた。そして振り返り際にふっ、と軽く笑って見せると、そのまま自分に背中を向けて歩き出していった。
今此処で後ろから彼を打つことだって出来るのに、彼の其れは酷く無防備だった。信頼の証、と取っていいんだろうか。
そう思うとふと嬉しくなって、笑みが収まらなかった。銃を懐にしまう。これが彼に向けられるのはきっと本当に最後の最期なんだろうと思った。
彼のつけた足跡と、その背中を交互に見ながら自分は一歩を踏み出した。