例えば今すぐ息の根を止めたいとか。
例えばその首筋を綺麗に引き裂いて貴方をお似合いの赤で飾り付けたいとか。
例えば、例えば、自分がいつだってそんな欲望を持て余していると言えば、貴方は一体どんな顔をして自分を見つめるだろうか。
その端整な顔つきを歪ませる事に少しの歓喜を覚えるのは、生まれ持った狂気によるものなのか殺人鬼としての本能によるものなのか。
彼を守る存在は自分だと主張する反面で、血の海で眠る貴方を想像しては美しいと感じてしまう。
(矛盾、しているか。)
自問自答してみた所でそれを声に出さなければ返ってくる言葉もありはしない。
夢の中でなら心も読めてしまう彼も、流石にこの世界では傍にいる自分の心ひとつさえ読めないようで。
それが嬉しくも残念だと感じる自分の思考はやはり基本的には矛盾しているのだと思う。
ぱらりとページをめくり、淡々と内容を読み進んでいく彼を横目だけで確認する。
普段の何処かぬけた彼からは想像も出来ない、アリスが此処にいるとするならば真っ先にそれを口にするだろう。
見慣れている自分からしてみれば「何時もの事」なのだが、当初の自分ならば言っても可笑しくないな、と苦笑する。
それだけ自分が彼の傍に仕えているということだ。気づかぬうちに流れていった月日の長さを今更ながら痛感する。
こんなに長い間傍にいなければきっと自分がこんな不安定になることもなかっただろうに。自嘲するようにまた小さく苦笑を浮かべた。
「グレイ・・・どうかしたのか。」
変な所で鋭い人だ、と口には出さず思ってみる。
もしかしたら夢の中だろうがなんだろうが彼は人の心であればどんな世界でも読み取る事が出来るのではないだろうか。そんな事さえ思い浮かぶ。
戸惑いを見せぬように出来る限り冷静を保った声色で「いえ、何でもありません。」とだけ返事を返した。
(ええ、大丈夫ですよ。まだ、大丈夫。)
殺したい欲求以上に、私が貴方を愛したいと思えるうちは、きっと。