頼りなくて使えなくて、そんな上司。体が弱いのにも関わらず病院が嫌い(しかも注射が嫌だと云うくだらない理由で)それでもって薬は飲まない。その上にあちこちの銘柄の煙草を吸うなんて悪影響しか与えない事をする。偏食で作った料理には大抵時間は無くなるばかりなのに、仕事は増えるばかり。減らせば増え、減らせば増えの繰り返し。どうしてこんな人の下に居る気になったのかと、あの時の自分に問いかけるばかり。出会った時どれだけ綺麗に見えたかは、今も忘れることは出来ずに脳裏に浮かんでいるけれど。均衡がすぐにも崩れてしまいそうな儚くて危うい感じが綺麗で。今も昔も変わる事無く、目を奪われるその輝き。その時全てを奪われた。
「あの時も、今も全くお変わりないですね…体の調子は前より悪くなったようですが」
「……そうかい?グレイは変わったね。前よりも――」
疲れた感じがすると言って、それは誰のせいだと溜息が出る。小さな笑い声からは悪気があるのか無いのかは読み取れない。分かったのは、体調の事を聞くと触れない事。光によって時たま違う色に見える髪の色は変わらなかったけれど、その肌の白さは一層増しているように見える。というか確実に増している。白いだけでは済まされない、透き通る白さ。消えないで消えないで。もうすぐ消えてしまいそうな儚い匂いが一層美しさを増しているのは確かなのだが、それは人には訪れてはいけない部類の美しさだ。シグナルが鳴り響く。恐ろしい、怖い。この灰色が、白が居なくなってしまうのが怖い。あの時に出会った美しさに、今も変わらず魅せられているのに。時が続く限り、魅せられるのに。
「グレイ?」
優しく響いた声に、続いた小さな音。頬に付いた暖かさが異様に残る。暖かいを越して熱いそれに、何もかも呑み込まれてしまえばいいと思った。誤魔化していることを知っていても問うたりはしない。時間が無い事を一番しっているのは、きっとこの人だから。だから代わりに、どうか口付けと共にこの身を滅ぼして。