アリス=リデルという人間がこの世界にやってきて一月ほど経った。
出会って早々銃口を突きつけたことなど当の昔に忘れ、それなりに彼女との距離も縮まってきた。
当初は「飽きれば殺す」だなんて言っていたあの上司でさえも、知らぬうちに自室に招き入れるような関係になっているようだった。
自分やごく少数の部下しか訪れる事を許されていないあの自らの懐といってもいい場所だというのに、珍しいというか意外というか、何というか。
静かに彼の部屋へと入っていく彼女の後姿を見て、自分は表す事の出来ない空虚感に襲われていた。

「この書類に目を通せたら戻っていいぞ。」

数日後、次の仕事の為に呼び出された自分は上司の自室へと訪れた。
淡白な彼の言葉には少しの苛立ちとらしくない焦りが感じ取れた。
誰が見ても分かるその態度にさすがの自分も気づかされる。きっとこの後、アリスがやってくるのだ。
そんな彼らの一時を邪魔しないようにと、自分なりに気を遣いさっさと部屋を出ようと腰を上げる。
手に持った書類を彼の机へと置いて、最愛の上司へと視線を送る。
彼も珍しく大人しい自分に違和感を感じたのか視線だけを交じ合わせてきた。交差する視線の中、自分は自然と口に出た一言吐き出した。

「アリスってさ、可愛いよな。」

いい子だ、俺結構好きだ。と付け足して笑顔を繕った。
彼の瞬時に歪んだであろう表情を見る事もなく、直ぐ様自分はその場を後にした。
行き場のない虚無感はまだ胸の内で乱暴に蠢いている。
自分の見るものと彼の見るものが交じわることはきっとないだろうなぁと、怖いくらい冷静な頭がそんな計算を弾き出していた。






を見あげた、を見ていた

キナコさま