「帽子屋さんの手、俺好きだな」
手袋で守られていたからか、焼ける事も無く傷付く事も無く美しさを保った白い手に。これまた手袋で守られていたが剣を握っているせいか男らしい手が触れる。手の甲から指先までを人差し指で撫でながら呟いたエースに、ブラッドは不機嫌さを隠そうともせず眉を寄せて溜息を付いた。自分の手を見てても何が楽しいのかと言う彼の思いが伝わったのか、エースは相変わらずの笑みを浮かべて言う。
(綺麗な手綺麗な手。汚れているのに汚れていない手不思議な手。その手が汚れる所がみたいような、みたくないような。白い手が血で汚れる様も、白い手が白で汚れる様もとてもとても、綺麗だろうな)
「白くて綺麗だ。こんな汚れてない手を見るとドキドキするぜ」
同じ男なのに全く違う手みたいだ、と言葉を続けるエースに言葉を聞くのも飽きたようにぐったりとした表情になる。第一ドキドキと云う言葉がその口から発せられる事がおぞましいというような目で見やるも彼の手に興味を全て奪われたエースには何も通じない。黙っていれば手の甲に生暖かいざらざらとした物が触れ、ブラッドは思い切り手を振った。当然、威勢の良い音もついて。
(あまりに白くて美味しそうだから食べたくなったんだけど駄目かな。俺と何一つ同じじゃないっていうのは言い過ぎだとしても同じところが見付からない手はきっととても美味しそうだと思ったのに。ああ食べたいなおなかが空いた。食べたい食べたいのに)
懲りないエースがまた手を伸ばせば、これまた懲りないブラッドが手を差し出した。二つの手が合わさって、手をぎゅっと握れば握り返されて、このまま手がくっついてしまえばなんて幸せなんだろうと思考は巡る。
「ずっとずっとこうしてたい」
「ずっとは御免だが今少しなら許してやる」
(今の所は空腹を我慢しよう、だから思いを飛ばそう)