三月男は気まぐれをうたう


キナコさま



「ブラッドはやっぱり血が似合うよな!」

手に浴びてしまった赤を丁寧にふき取っていると、隣の部下は突然突拍子もないことを言い出した。
彼のいきなり具合にはいい加減慣れてきたのだが、その言葉の意味する事については未だ一切理解出来ない。
それに似合うなどといわれた所で不快に思うこともなければ何かが特別嬉しいわけでもない。その程度の誉め言葉だ。
しかも今現在誰よりも血の赤を浴びながらそんな事を言われても、正直何一つ説得力がない。
辺りに散らばった死体の上を戸惑いもなく歩いていくその姿こそ、本当に「血の似合う」人間だと自分は思うのだが。
自分がそう思考を巡らせていたとき、彼は何かを思いついたように声をあげ、くるりと此方を振り返った。

「やっぱ今の訂正する!」

軽い口調でまたも意味の分からない事を言ってのけ、何を何の為に訂正するのか分からない自分はただ首を捻るのみである。
まぁ所詮は馬鹿の考える事、深く問い詰めるだけきっと無駄だろう。相手の勝手な一人相撲にいつまでも付き合ってやれるほど自分は暇な身ではない。
さっさと屋敷に戻ろうと踵を返した直後、何時の間に駆け寄ってきたのか、エリオットはその長い耳を楽しげ揺らしながら自分を見ていた。

「俺の血を浴びたブラッドの方がきっと、もっと綺麗だ。」

何がそんなに嬉しいのか、満面の笑顔を浮かべて自分の前を走り去っていく。
犬のようなその後姿を見ながら、自分は出る限りの溜息を吐き出してみた。