「エリオット、お前は根本的に何かを間違えている。」
「そんなことねぇよ、俺ブラッドのことちゃんと好きだぜ。」
「なら今すぐに私の上から潔く退いてその銃口を自らのこめかみに当てて即座に引金を引いてくれないか。」
先ほどの兎の突然の暴動により、きちんと整頓されていた家具や書類は見るも無残な姿へと変貌した。
ただでさえ不眠で苛立っているというのに、馬鹿の世話までしていられない。
今ならまだ人参フルコース二週間厳禁だけで済ませてやる、という意味合いを込めてもう一度その目を睨みつけてやる。
だがそんな睨みで動じるような男が自分の片腕としていられるはずがなく、憎らしい狂った笑みを浮かべたまま、馬鹿は気持ちの悪い視線を自分に送り続けるだけだった。
視線から伝わる愛の羅列に吐気がした。そして何処かで聞いた覚えのある「愛しているのなら死んでください」というフレーズが脳裏に過ぎった。
それによる極上の愛を欲しながらもあつかましくそいつの肉体まで奪うなど、傲慢で強欲な恥知らずな人間もいるものだと当時は罵ったものだ。
一人の人間に執着する浅ましさをまざまざと見せ付けられ、反吐が出そうになったのもよく覚えている。
あんな幼稚な独占欲を「愛」などとよく恥ずかしげもなくいえるものだと、鼻で笑っていたというのに。
(自分の部下がそうなるとは思わなかった。)
チッと舌打ちを一つ、あからさまな嫌悪を表しているつもりなのだが相手には全く持って効果がないようだ。
反抗しようにも頼みの杖はとっくの昔にバラバラにされていてどうすることも出来ない。
いざとなれば直ぐにでも殺せると思っていた男に、こうして動きを奪われているのだと思うと腹の底から煮え繰る返る様な気分になった。
抵抗しなければ、間違いなく自分は赤に染め上げられてしまうだろう。純粋な狂気に覆われた兎を見ていればそんな事は一目瞭然だ。
しかし抵抗は出来ない。ならばどうすればいいのか。相手は自分からの愛と魂と肉体を欲している。しかしその愛し方を間違っている。
それをきちんと教えてやることが出来ればこの状況も回避できるのではないか?至極単純なものだが最早形振りなど構っていられない。
「エリオット。」そう呼びかけようとした時、いきなり首筋へとキスを落とされる。突然の事で言葉が引っ込んだ自分は呆然と相手の瞳を見た。
何の穢れのない、普段の男の無駄に美しい瞳だった。
(・・・正しい愛とは何だ?)
誰に言うわけでもなくそんなことを思った。
銃口は未だ向けられたまま。しかし止まらずに降り注ぐ不釣合いな愛の言葉に自分はもう何も言う気にはなれなかった。